学術
参考文献

Q11: 抗体検査で陰性でも細胞性免疫または自然免疫で守られている可能性があると聞きました。 それはどういう事を意味しますか?

A11: ワクチンは、一度侵入した病原体を記憶し、次に侵入しようとした時に速やかに戦い身体を守る以下2つの免疫メカニズムを応用したものです。

・体液性免疫・・・B細胞が形質細胞へ分化して、抗原に特異的な抗体を産生するもの
・細胞性免疫・・・抗原に特異的な感作T細胞が誘導されて免疫現象を担うもの

生ワクチンは細胞性免疫(侵入した病原体を細胞ごと破壊する)が主体となって防御する病原体に、不活化ワクチンは液性免疫(抗体によって病原体の毒性を中和)が主体となって防御する病原体に、それぞれ高い効果が期待ができます。

抗原特異的B細胞による特異抗体産生や、感作T細胞による免疫現象は獲得免疫と呼ばれます。獲得免疫は、抗原特異的であること、免疫学的記憶があることが特徴です。
免疫学的記憶(メモリー)は、一度抗原に感作されたT細胞やB細胞は特異的な受容体を持ちクローン増殖するためにそれがメモリーB細胞、メモリーT細胞として残存しているために起きる現象です。ワクチンのブースターや自然感染といった免疫刺激が無ければ、抗体は時間が経つにつれて減っていきます。
それに対してB細胞の記憶は長期間存在します。抗体が低くなっても、ワクチンの抗原刺激があればB細胞の記憶をもとに免疫グロブリンが迅速に、数時間のうちに再度産生され、抗体価が上昇します。

自然免疫は食細胞(好中球、マクロファージ)、補体、ナチュラルキラー細胞が担当します。早期の感染防御に重要な役割を果たしますがメモリーは残らないとされてきました。しかし、最近の研究からは、ある程度のウイルスの種類にも対応することが判明しています。また、自然免疫は獲得免疫の反応を惹起する重要な役割をはたすことが知られています。

抗体検査で陰性の結果が出て、免疫グロブリンによる液性免疫が感染防御に可能な限界値を下回ると想定される場合でも、細胞性免疫による免疫学的記憶や自然免疫による獲得免疫の誘導などによって感染防御に役立っている可能性は否定できないのです。